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COLMUNコラム

「生き物」と「食べ物」の境界線

生産地めぐり

DATE
2020/03/14

※本記事には動物の屠殺写真が掲載されています。
 苦手な方は閲覧をご遠慮いただきますよう、お願いいたします。

皆さんは動物を見た時にどんな感情になりますか。

「可愛い」
「こわい」
それとも「美味しそう」??

人の感情とは不思議なもので、
大体の人は
生きている動物を見て「可愛い」と思い、
死んだ姿を見て「かわいそう」と感じ、
肉の塊を見て「美味しそう」と感情を変化させるのではないでしょうか。

でもそれは、どれも同じひとつの命の姿。
私たちは動植物の命をいただいて、今を生きています。
弱肉強食は、はるか昔から変わらない命の循環。

3月中旬にFisherman Japanの長谷川さんにご紹介いただき、
石巻で鹿の狩猟に携わる大島さんの狩りに同行させていただきました。

大島さんは新卒で入社した広告会社を退職後、
石巻に移住し、今は鹿の命と向き合う仕事をされています。

農林水産省のホームページによると、
野生害獣による農作物への被害額はおよそ158億円。
6年連続で減少傾向にあるものの、被害金額は依然として高い水準にあり、
そのうちの6割が獣類、4割が鳥類によるものとのこと。
獣類では9割がイノシシ、シカ、サルによるものだそうです。

害獣被害は営農意欲の減退、耕作放棄地の増加等をもたらし、
被害額として数字に現れる以上に農山漁村に深刻な影響を与えていて、
害獣被害が深刻化している要因としては、害獣の生息域の拡大、
狩猟による捕獲圧の低下、耕作放棄地の増加等が考えられるそう。

そこで、「獣害駆除対策」として、
1頭仕留めるごとに国や地域からお金がもらえる仕組みになっています。

大島さんの狩猟スタイルは罠。
前日のうちに十数箇所、罠を仕掛けておき、翌日に罠の回収にまわります。

(薄緑色の四角いものが餌)

この日、罠にかかっていた鹿は全部で3頭。
雌鹿、雄鹿、雄の子鹿でした。

4本ある脚のうち、1本のみにかかった罠。
かかってしまったからには、もう逃げられない運命だけれど、
鹿は必死にその場から逃げようともがく…。

そこに大島さんが近づき、こめかみ部分に一発金槌を打ち込み、
ナイフで喉を切って血を出します。

パタン…と地面に倒れる鹿。
死がゆっくりと近づく中、それでも必死に生きようと、
呼吸をし続ける姿に、おもわず涙が出ました。

命をいただいて生きていることはわかっていたつもりでしたし、
こうして屠殺された動物のお肉をたくさん食べて生きてきたのだから
泣く権利なんてないと思いつつ、
目の前に広がる景色には、たくさんのうちの一つではない、
ただ一つの命という衝撃がありました。

雄鹿の場合、たとえそれが子鹿だったとしても、
鹿の角で向かってこられた場合、人が怪我をする可能性もあるため、
まず角にロープをかけ、罠がつながっている木とは別の木に、角を固定します。

最初は逃げようと必死だった雄鹿は、逃げられないと悟ってか、
口元をペロペロさせ(これが戦闘態勢の合図だそうです)
戦う姿勢を見せていました。

(絶命すると目の色が黒からエメラルドグリーンに変わります)

この日、3頭仕留めたうちの1頭、雌鹿をさばき、
食肉にして持ち帰らせていただきました。

この日は食肉工場がお休みだったため、
外の木に鹿を吊るして、まずは皮を剥いでいきます。

皮を剥ぐと、ほのかに立ち上る湯気。
鹿の生きていた体温が蒸気となって自然の中に消えていく。

皮を剥ぎ、部分ごとに解体し、最後は厨房内で見たことのある
食肉の姿に変身していきました。

「生き物」から「食べ物」へ。
その境界線はどこにあるのでしょうか。
果たして、境界線なんてあるのでしょうか。

「害獣駆除」として捕獲された動物のうち、食肉として流通するのは全体の約10%。
その他90%は、そのまま殺処分として国が指定した場所に埋められています。

食肉として流通させるためには、食肉加工場を通さなくてはならないし、
手間もかかれば、もちろん衛生管理も必要。
そして、良い状態のお肉でないと、買ってもらえないし、
地域に食肉加工場がなければ、食肉にもできない。

ここ最近はようやく犬や猫などの殺処分0運動や、
ペットのアニマルウェルフェアにもスポットが当たり始めましたが、
害獣と呼ばれる野生動物の殺処分にスポットが当たるのはまだ先になりそうです。

もとを辿れば、爆発的な人口増加による自然界の変化によって
増えてしまった野生動物たちは「害」ではないはず。

命の扱い方について、今の私たちにできることはわずかなことですが、
これからも目を背けることなく、一人でも多くの人の気づきと発見になるような
食時を届け続けていきたいと思っています。

大島さん、ありがとうございました…!

(いただいた鹿肉は寝かせた後、ローストとして美味しくいただきました。)