COLMUNコラム
<杏理さんに聞いてみた vol.1> |「ケータリングってどんな仕事?」
- DATE
- 2024/10/30
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みなさん、こんにちは。「CRAZY KITHCHEN」のウェブサイトにようこそ。
ケータリングという仕事を通じて世の中に食の喜びを伝えることを生業(なりわい)にしているのが「CRAZY KITCHEN」代表の土屋杏理さんですが、いつも飛び回るような勢いで仕事に取り組んでいる様子。
そこで、彼女の頭の中にある想いやアイデアを、食のジャーナリストとして活動する私、山口繭子が少しずつつまびらかにしていけたらと思います。お付き合いいただけたらうれしいです。
●実は定義もルールもないケータリングの世界
前回ここでCRAZY KITCHENについて記してから、なんと3年が経とうとしています。気がつけばアフターコロナ、そして目が回るような忙しさ。「ありがたいことです」と語る土屋杏理さん(以下、杏理さん)ですが、今、どんな毎日を過ごしているんでしょう?
「この間、何があったかといえば、ずっと仕事をしていました。そして私ごとですが出産をいたしまして、ぐるりと世界が変わりました。コロナが終了し、世界は元に戻ったかといえばそうではなく“シフト”したと感じています。私も新生・土屋杏理として、新たな気持ちで日々の暮らしに向き合っていけたらと思っている今日この頃です」(杏理さん)
さて、“新しい杏理”として仕事への取り組みを深めたいという彼女に、一つ一つ、質問をぶつけてみましょう。
初回の質問は「ケータリングってどんな仕事?」という話です。
「実はケータリングに厳密な定義はないんです。職業ジャンルとしては飲食店に属しているため飲食業営業許可証の取得が必要ですが、その他は特に決まりごとがあるわけでもなく、そのため世の中にはあらゆるケータリング会社・個人ケータラーが存在しています」(杏理さん)
驚き。確かに、「ケータリング」という言葉から思い浮かべるイメージは人によって違いますよね。だって、個人のパーティーや別荘貸し切りのプライベート食事会などに出張料理人を呼んでその場で料理をお願いする、あるいは料理だけをデリバリーしてもらうのもケータリングなら、宮家の方々が招待客を招いて開催される園遊会のような大イベントの際に並ぶ豪華な料理、あれもケータリングです。でも、CRAZY KITCHENが手がけるケータリングは、それらのどれとも似ていないように思います。
●大切なのは、その場を特別な食の時間に仕上げること
ではCRAZY KITCHENのケータリングとはいったい?
さまざまなクライアントを相手に、毎回異なるテーマを打ち出す杏理さんにとって一言で表現するのは難しそうですが、
あえていうなら下記のような点がCRAZY KITCHENの特徴です。
- “毎回が初回”のNOTルーティンなケータリング
- テーマ性にこだわるオーダーメイドケータリング
- 時代性や意義を重んじるサステナブルケータリング
もう少し平たく言えば、「おいしい、安い、便利」も大事ながらそれ以上に大切にしているものがある、ということです。
その日そこでCRAZY KITCHENのケータリングを体験するゲストが、イベントのことやそこで話した相手、場の雰囲気をずっと忘れない、そんな「ハートに刺さるケータリングがうちの存在意義」と言う杏理さん。
2015年の創業以来、その理念は変わりませんが、一朝一夕に今のスタイルが確立したわけではありません。まさに紆余曲折と切磋琢磨の螺旋階段。そんな状況をたどりつつ、9年走り続けてきた結果、今があります。
2020年からの3年間はコロナ禍によるイベント数減少に従って多少の寄り道はあったそうですが、現在、受ける仕事のほぼ9割が企業相手のB to B。未来思想、環境志向の強い会社が多いのもCRAZY KITCHENの特徴です。
そして、一度仕事をした企業や代理店からのリピート率が非常に高いのももう一つの特徴。これは、CRAZY KITCHENのケータリングがちょっとユニークだというのが理由のようです。
●オーダーメイドのケータリングをデザインしてお届け
例えば、某クライアントがブランドの歴史を記念したアニバーサリーイベントを開催するとしましょう。
目の肥えたゲストに喜んでもらうためには、人気ブランドのシャンパンやワインを準備したり目にも華やかでおいしいフードをたくさん準備すれば、ある程度は成功するはずです。
けれど、CRAZY KITCHENの場合、ちょっとやり方が違います。
何かといえば、最初のリサーチが。まるで私が杏理さんを取材するかのように、杏理さんもクライアント(時には間に入る代理店担当者)からじっくりと話を聞くのだといいます。
その会がどういう内容のものか、何を目的に開催されるのか、どんな方々が参加するのか、その男女比や年齢層、さらにはその会社の強みや魅力、これまでのことや今後の抱負などに関して、「相手がお許しくださる限りじっくりと伺うんです」と杏理さん。
「相手がよほど慣れた方や料理に詳しい方でない場合は、ケータリングフードやドリンクに対して具体的な注文をするのって実は難しいのではないかと思います。予算や必要量を満たし、なおかつ会の趣旨をフードやドリンクでゲストに伝え、そして食器や会場装飾、ゲストの動線までを計算してまとめ上げるのって、ある意味職人仕事です。なので、お話をお聞かせいただければ、こちらでコンセプトワークも含めてご提案まで差し上げるようにしているんです」(杏理さん)
「あー、おいしかった!」で終わる新商品発表会もそれはそれで成功です。
けれど、どうせなら「あのブランド、商品製造アトリエが青森にあるって知らなかった。アトリエの近くで収穫されるりんごのお酒やお菓子、おいしかったな。今度旅することがあったら、アトリエに遊びにいこう」とまで参加者に思ってもらえたら、そんなケータリングイベントって最高じゃないですか?
●オーダーメイドケータリングには伸びしろがある
杏理さんが今のような、ちょっとキャラクターの濃いケータリングを手がけるようになったのにはいくつかの理由があります。中でも、直接的なきっかけになったのはCRAZY KITCHEN立ち上げの前に在籍していた企業の性格によるものではないでしょうか。2012年に創業した「CRAZY WEDDING」。創業時からユニークな社風で知られるオーダーウエディングカンパニーで、杏理さんは新卒入社した東京の広告代理店を辞めてここの創業メンバーに加わりました。
そこで彼女が学んだのは、細かいディテールまで相手に合わせてオリジナルのオーダーメイド結婚式・披露宴を提案し、実現まで寄り添う姿勢。画一的な結婚式が当たり前だったそれまでの風潮に一石を投じた企業での経験は得難いものになったと語ります。
ただ、そんな中で杏理さんはたまにもどかしく思うこともあったそう。現在では少なくなりましたが、当時はコンテンツにこだわって考え抜かれた結婚式でも、フードとドリンクにまでその思想を散りばめることが難しかったといいます。やはり結婚式は会場装飾やドレス、そこで何をやって思い出作りをするかが真骨頂だったからです。
「未来のケータリングフードやドリンクは、もっともっとコンテンツにジョインしたものになったらいいな」と考えた杏理さん。食をもう少しだけ、中央の存在に。もう少しだけ真ん中に寄せていきたい。そんな彼女の思いは徐々に高まり、ついにケータリング専門のブランドを自分で作ろうとなったわけです。
●主役はゲスト同士のコミュニケーション
ですがここで、杏理さんは意外な打ち明け話をしてくれました。
「私はケータリング会社を主宰していますが、イベントにおいてフードやドリンクが会の主役になったらおしまいです」というのです。どういうことでしょう?
「イベントの参加ゲストが、会の趣旨も周りの話もお構いなしで目の前のフードとドリンクに夢中になってしまったら、そのイベントは失敗です。おいしかったとゲストは喜んでくれるかもしれませんが、クライアントはきっと残念な気持ちになるでしょう。
ケータリングの場で最も大切なもの、それはゲストとホスト、あるいはゲスト同士で交わされる温かなコミュニケーションに他なりません。
なので、それを邪魔してしまうような大仰な映えフード、場違いなドリンク、食べづらさを感じさせてしまう趣向は御法度です。ご馳走が主役になる高級レストランや日本料理店とケータリングとの決定的な違いは、そんなところにもあると思います」(杏理さん)
なるほど。確かに杏理さんの言うとおり。ケータリングイベントの会場では、杏理さんをはじめCRAZY KITCHENのスタッフはいつも会場内を忙しく飛び回り、ゲストやホストの様子をつぶさに拝見しているといいます。
どこかに長すぎる行列ができていないか、人溜りができて周りを妨げていないか、お皿やカトラリーは足りているか、荷物や使用後の器の置き場に困っている方はいないか、ホストの趣向をゲストが楽しんでいるかどうかなど、観察ポイントは尽きません。毎回が初回なので、「ハプニングには強くなりましたが、いつまで経っても場慣れするということがありませんね」と笑います。ですが、これこそこの仕事の醍醐味なんだといいます。
●まだ見ぬ未来のお客さまへのご案内
絶え間ない努力を重ねた今、CRAZY KITCHENには毎日のように新規の問い合わせが届きます。何かのイベントに参加した体験者が「今度はうちも」と言ってくることもあれば、このサイトや杏理さんのインタビュー記事を見た縁で繋がることも。
その中から本当に仕事に発展するのは、だいたい3割くらいだそう。CRAZY KITCHENは主にB to Bで仕事を受けているため、発注者の想像よりも見積りや規模が大きいとか(場合にもよりけりながら、50〜200名規模のイベントケータリングが主流)、イベントまでのスケジュールが合わないなどが主な理由です。けれど、「新しい出会いは常に求めています」と語る杏理さん。「おいしさを超える食体験を共に築きたいと思ってくださる方がいらしたら、ぜひご連絡いただけたらうれしいです」と今の意欲を話してくれました。
ではまた、こちらでお会いしましょう。
文/山口繭子
神戸市出身。『婦人画報』『ELLE gourmet』(共にハースト婦人画報社)を経て独立。現在、食や旅、ライフスタイル分野を中心にディレクションや執筆で活動中。https://www.instagram.com/mayukoyamaguchi_tokyo/