CRAZY KITCHEN

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COLMUNコラム

<杏理さんに聞いてみた vol.3>ケータリングっていくらかかる?

杏理さんに聞いてみた

DATE
2024/12/27

みなさん、こんにちは。「CRAZY KITHCHEN」のウェブサイトにようこそ。
ケータリング企業「CRAZY KITCHEN」を率いる土屋杏理さんの視点を通して食とは何か、社会と女性との関わりとは、現代をしなやかに生きるって?……などさまざまな事象を考えてみようという、この連載。
食の編集者、山口繭子がお伝えします。今回は、誰もが気になるお金の話。ケータリングの料金体系について聞きました。

●「ケータリング業」は範囲が広すぎ
完全オーダーメイドによるケータリング業を営む土屋杏理さん(以下、杏理さん)。彼女が率いる「CRAZY KITCHEN」は、主に企業やブランドを相手とするB to Bスタイルで、イベントや発表会でのフードケータリングを手掛けています。
私はふだん、レストランやホテルを相手に活動しているのですが、杏理さんと定期的にお話をするようになってからというもの、「ケータリングとは何なのか」について考える機会が増えました。そして調べまくって観察しまくって、おかげで知識量も増えました。興味深い情報が次から次へと入ります。
例えば、世界的に有名なアメリカの人気ライフスタイルコーディネーター、マーサ・スチュワートさん。御歳80歳を超えてなお精力的で料理研究家の草分け的な存在ですが、若い頃には株式のブローカーやモデルをしていたのが出産を機に田舎に移り住み、自宅で始めたケータリングサービスのセンスの良さが話題となって、その後の映えあるサクセス人生に繋がったというのは面白い話だと思いました。彼女がケータリングに勝算を感じたのは今から半世紀も前の話です。
また、これまで私が「ケータリングってこういうこと」だと考えていたものが、実際には業界全体の中で本当に小さい部分を指していることにも驚きました。結婚式やイベントにおいて、華麗で粋なフードコーナーを創作・展開するのがケータリングだと考えていたのですが、実際にはもっと広いジャンルです。
「外食」というとても一般的な言葉があります。外の飲食店で食事をすることですが、これに対して「内食(ないしょく・うちしょく)」「中食(なかしょく)」という言葉があります。この言葉に対する理解も乏しかったことを恥ずかしながら白状しますが、「内食」は読んで字のごとく、外食の逆。家で食事をすることです。そして、買ってきたものを家で食べることを中食と呼びます。
そして外・内・中の食とは異なり、どこかしらに食を運ぶことが「ケータリング」です。杏理さんのようなスタイル以外にも、例えば機内食や病院食、介護ホームなどでの食事運搬と提供もケータリングだし、お弁当や惣菜配送なども大きく括ればそう言えます。もっとも、単に食事を運ぶだけの場合だと「デリバリー」と呼ぶ方がしっくりくるのですが。

●美味&安価だけではケータリングは失敗する
前置きが長くなりました。なぜ私がケータリングの定義にこだわりたいかというと、この違いを理解すると自分がいざケータリングをオーダーする時、あるいは実際にイベントなどでケータリングフードをいただく際に細かいところまで気づけるし、もっと楽しめるようになるからです。
重要なのは
・ケータリングにもあらゆる種類・クオリティーがある
・おいしければよいというものでもない
・安ければよいというものでもない

……という3つを理解すること。おいしいフードがあればイベント成功、ということであれば巷で話題のフード類を購入して、会場で出せばよい話。けれど包装を外して食べやすく器に盛り付け、カトラリーを準備して飲み物も用意して来場者に配って……となると、大変なことになってしまいます。イベントに参加して良かったと参加者に思ってもらうには、雰囲気やサービス、インパクトなど、味わい以外の要素がものすごく重要です。
昨今、これほどまでに多くの企業やブランド、最近では一般個人でも利用する人が増えたケータリングなのに、「どうやってオーダーすれば良いか」「どうすれば理想のケータリングが実現するか」については最初の第一歩もよくわからない、ということがほとんどです。実際問題、「CRAZY KITCHEN」への問い合わせのきっかけもSNSやネット検索からたどり着いて、ということが多いそう。その中から実際に仕事が成約となるまでには多くの説明や理解が必要ですし、問い合わせのお客様のうち本当に仕事として実現するのはほんの数割ほどだといいます。

「もちろん、お問い合わせには丁寧に対応するように努めているのですが、そもそもケータリングはレストラン食でもデリバリー食でもないので、その違いについて多少でも知識があればオーダーもしやすいでしょうし、ご希望のフード・ドリンク・サービスを叶えやすくなる。そして何より、金額設定についてのご理解が楽になるかと思います」(杏理さん)

●ケータリングの金額内訳について知りたい!
繰り返しになりますが、イベントやパーティーにおいて、参加者の感動や思い出につながる食のシーンをコーディネートし、実際にそれらを実践するのがケータリングの仕事です。特に杏理さん率いる「CRAZY KITCHEN」が手掛けているものはオーダーメイドケータリングであり、これは毎回、現場も内容も異なる一期一会の創作物。翌日になると魔法のように消えてしまう食空間ながら、参加者の心には大切な思い出として残ります。
それだけに、この記事を書いている私にとってもお金の話はとても気になるポイント。今後、「CRAZY KITCHEN」にケータリングを依頼したいという方に代わって、単刀直入に聞いてみました。

「単なるフードデリバリーではなく、食とドリンク、そしてそれらを取り巻く空間もトータルプロデュースしてお運びするというのがCRAZY KITCHENです。素晴らしい空間の中で食事をするという点ではレストランに通じるものがあり、新規のお客様が“一人あたり○○○円でお願いします”とおっしゃることが多いのも、レストランを思い浮かべてお話しされているからだと思います。ですが“一人○○○円”で予算を組む業者さんの場合、オーダーメイドということはまずなくて、予算別に決まったメニューがいくつか設定されてあって、そこに数種のオプションを付けられるかどうか、みたいな話であることがほとんどです」(杏理さん)

わかりやすくレストランを例にとって値段内訳を考えてみましょう。

<レストラン>
・料理代
・ドリンク代
・サービス料

<パッケージ化されたケータリング>
・一人分の料理代(松竹梅的な値段設定が何種類かあり仕様も決まっている。また現場でのサービス料なども含む)×人数分
・ドリンク代(既製品の中から選ぶスタイルが多い)×人数分
・会場装飾代(決まったスタイルの中から選ぶことが多い)
・サービススタッフ代(提携人材斡旋企業からの派遣が多い)
・運送費(距離と物量に応じて決まる。これも料金に含まれている場合も)

<オーダーメイドケータリング>
・料理代(50人〜200人の規模が多い。料理内容はイベントによって変わる。特殊なスタイルを持つシェフや料理人を伴う場合も)
・ドリンク代(既製品からオリジナルカクテルまでイベントに合わせて対応)
・会場装飾代(イベント内容に合わせて多様にプロデュース。フラワースタイリストや空間デザイナーが入る)
・サービススタッフ代(イベントに適したクオリティーのサービススタッフを提携人材斡旋企業より派遣)
・運送費(距離と物量、運ぶフードやドリンク、機材の内容によって決まる)
・企画料(イベントのテーマに合わせてすべてをデザインし、プロデュース)

こうして箇条書きにしてみると、オーダーメイドケータリングの特性が見えてきた気がします。

●ケータリング、それは感動を生む食空間を届けること
「一流のレストランであれば、料理やワインのクオリティーはもちろんのこと店のしつらいやスタッフによる洗練されたサービスなどにも最大限に気を遣います。見えるところも見えないところも大切というのはケータリング業も似ていると思いますが、決定的に違うのはケータリングというのは刹那の感動を何よりも大切にする飲食業だということです。現場もテーマも毎回違いますし、たった数時間しか存在しない場のためにオリジナルのフードやドリンク、花、サービス、趣向を凝らして、お客様に喜んでいただかなくてはなりません。クライアント様のご希望も本当に多岐にわたるものなので、『一人○○○円なのでこの人数だと○○○円です!』というざっくりしたお約束にはできないんですよね……」と、ちょっと申し訳なさそうに語ってくれる杏理さんですが、確かにレストランとは異なる苦労や工夫が必要なのは間違いありません。

●実例!「something」アニバーサリーイベントの場合
思いもしなかった影の業務がたくさんありそうなケータリングですが、最後に最近実施したイベントケータリングの例をお聞きしました。

それは誰もが名を知る人気のデニムファッションブランド「something」。アニバーサリーイヤーを迎えるということで、メディアやインフルエンサー約130人を招いての盛大なパーティーが実施されました。このケータリングを手掛けたのが「CRAZY KITCHEN」でした。

華やかでセンスの良いフィンガーフードのテーブルには、フラワースタイリストによって生き生きとした生花がスタイリングされ、よく見ると小さなクッキーに至るまでブランドの永遠のモチーフともいうべきデニムを想起させるデザインが施されています。これらは、杏理さんがクライアントの意向を聞いた上で念入りにブランドについてのリサーチを行い、閃いたアイデアなのだとか。フードは知り合いのレストランシェフに依頼しましたが、この繊細なデニムクッキーについてはもう少し専門性の高い人が適任と考え、クッキーアーティストにオーダー。さらに、イベントのスペシャルゲストとして招かれたタレントの楽屋見舞いを模索中というクライアントの相談に対しても、このアーティストによる缶入りクッキーを提案したそう。キュートなクッキー缶にタレントは大喜び。結果、クライアントからはとても感謝されたといいます。
それだけではありません。「something」のアトリエは青森県と深い繋がりがあると知った杏理さんは、この日のウエルカムドリンクを青森の名産、りんごをモチーフに製作。もちろんフードにも多用しました。訪れた人たちはこのドリンクに迎えられ、ブランドの意外な情報を知って興味を持ってくれたそう。
約130名が訪れるパーティーにしては会場がこぢんまりしていることから動線を工夫し、女性客の多い会だったのでフードやドリンクが余らないように量も調節。杏理さんを含めサービススタッフはわずか6名で現場を回し、無駄な経費がかからないように配慮したといいます。

この日のケータリング料は、企画料や運搬費なども含めて100万円を多少超える程度の金額だったというから驚きです。「このブランドとは長いお付き合いだったので、お祝いの気持ちも込めて、かなりサービスもさせていただいたプライスです。ずっと変わらずに私をご指名くださるご配慮にお応えしたくて」と杏理さんは笑うのですが、例えば三ツ星レストランのシェフがケータリング仕事を受ける場合、その日店を閉める分の営業補償費としてケータリング料金とは別に100万円を超える額がかかることを私はかつて何人かのシェフから聞いたことがあります。

●単なるフードデリバリーではないから
「おかげさまでお仕事のご依頼は途切れないのですが、今現在も企画書の提出をお待ちいただいているクライアントさんが何人かいらして……」と焦り顔の杏理さん。料理もドリンクもサービス内容も画一的なものにすれば、どんどん展開できます。そうすればこのような“考える作業”からは解放されるとわかってはいても、そこには興味がないといいます。

「おいしいものが堪能できるレストランもあるし、便利なフードデリバリーもたくさんある。デリカテッセンやパティスリーに行けばなんでも素敵なものが買える。じゃあ私がケータリング仕事をする意味って何だろうと思ったら、1日で終わってしまうけれどずっと思い出に残る特別なオーダーメイド空間を作ること、これしかありません」(杏理さん)

一度、「CRAZY KITCHEN」のケータリングを体験すれば、きっと違いがわかるはずです。

ではまた、こちらでお会いしましょう。

文/山口繭子
神戸市出身。『婦人画報』『ELLE gourmet』(共にハースト婦人画報社)を経て独立。現在、食や旅、ライフスタイル分野を中心にディレクションや執筆で活動中。https://www.instagram.com/mayukoyamaguchi_tokyo/